クーカニロコ(オアフ島)
クーカニロコ(オアフ島)

ハワイには一般にパワースポットと呼ばれる場所があります。しかし、この名前は誤解を招きかねません。パワースポットという言葉は、心や体に力がみなぎる場所であり、訪れる者はそのご利益を得るという印象を与えます。しかし、パワースポットと呼ばれるの場所のほとんどは「聖地(Sacred Place)」であって、ハワイの島々に暮らしてきた人々の歴史遺産です。古墳など、私たち日本人の遺産と変わりありません。聖地を訪れるときは、敬意と謙虚さを忘れないようにしたいものです。

 

アウマクアとマナ

ハワイに移り住んだ先住の人々は、マナと呼ばれる特別なエネルギーを大切にしました。彼らは見慣れぬ土地で暮らすにあたり、祖国のタヒチやマルケサスなどの信仰を持ちこみました。人は死ぬと、アウマクアと呼ばれる霊になります。アウマクアは木や魚や雲などに姿を変え、子孫を見護ると信じられました。ちなみに神々はアクアと呼ばれますが、人が亡くなると、アクアのような性質を持つとされました。ポリネシアの島々で広く信仰される四大神である、カナロア、カーネ、クー、ロノもまたアクアであり、彼らの先祖でもあります。つまり、自然界の森羅万象(あらゆる存在)には先祖の霊が宿り、人々を見守るとされたのでした。ハワイ語ではそのような存在をマナ・キアイと呼びます。

四大神は天地を創造したり、黄泉の国を司るなど、超人的な行ないをすることもありますが、その本質は人々の死後霊です。アウマクアが宿るものには霊的なパワーがあると信じられ、それをマナと呼びました。マナは神々や霊だけが持つ能力ではありません。人間もまた自分の体に宿すことができると信じられました。人々はマナを通じて先祖の神々とつながることができたのです。そのため、少しでも多くのマナを取りこもうと、力のある者どうしが夫婦となり、より強い子どもが授かることを望みました。その結果、土地の権力者である首長(アリイ)が別の権力者と結ばれるべきだという考えは、ハワイの伝統社会に深く浸透していました。ときには親と子、兄弟姉妹が結ばれることさえありました。ハワイ語ではこのような霊的な力の支配をカラクプアと呼びます。

ポーハク・オ・カウアイ(オアフ島)
ポーハク・オ・カウアイ(オアフ島)

先住のハワイの人々は戦いや収穫、火山活動など、すべての事柄に先祖の神々(アウマクア)が関わっていると信じました。大きなことを成し遂げる力は、人間の知恵や体力では及ばないものです。マナはアウマクアと人間社会を結びつける重要な要素として重んじられました。

強い者には強いマナが宿るという考えは人間に限りません。サメやクジラなど、人に脅威を与える生き物にも及びました。人々は人間の力をはるかに凌駕するものを身につけることで自分のマナを高めると考えました。今日でも用いられる花のレイはかつては少なく、その代わりにクジラの骨やサメの歯、権力者の髪の毛などが重要な素材でした。

同じような理由で巨石や高峰、大滝、辺境の地もパワーのあふれる場所として尊ばれました。人々は強い人、強いもの、強い場所を通じて、マナを取りこもうとしたのです。それらすべては先祖の霊(スピリット)に繋がりますから、天界と人間社会は途切れることなくつながっています。人々は森羅万象を尊び、そこから強い信仰を導き出しました。このことからわかるように、聖地とは、天と地を結ぶ特別の舞台と言えます。今回はそのような土地のなかから巨石に絞ってお話しします。

アカカ滝の落ち口にあるポーハク・オ・カフナ(ハワイ島)
アカカ滝の落ち口にあるポーハク・オ・カフナ(ハワイ島)

 

巨石のパワー

ハワイ諸島は火山の島です。人々がハワイ諸島を発見した1000年以上前にはハワイ島とマウイ島では活発な火山活動が続いていました。途方もないエネルギーを目の当たりにした彼らは、大地の奥底から出現した灼熱の溶岩には特別の力が働いていると信じるに至りました。タヒチ語で火山や溶岩を表すペレという言葉が火の女神ペレとなった背景にはそのような事情があります。

この結果、ハワイの人々は大きな石に特別の思いを注ぐようになりました。カウアイ島のポーハク・ピコやオアフ島のカパエマフ、あるいはクーカニロコ、ハワイ島のアカカ滝にあるカフナ・ストーン、マウイ島のハウオラ・ストーンなど、どの島にも巨石にまつわる多くの聖地があり、いまも大切に維持しています。

たとえばカウアイ島のホロホロ・クーにあるポーハク・ピコは出産の場として用いられました。巨石のそばで子を産めば、その子に大きなパワーが与えられると信じたのです。絶大なパワーを得られる母親は権力者の妻に限られました。ポーハク・ピコの敷地には他にもいくつか巨石があり、それらも特権階級の人々が使用しましたが、権力者よりも身分の低い母親は中規模の石しか使えませんでした。

ポーハク・ピコ(カウアイ島)
ポーハク・ピコ(カウアイ島)

人々は石のパワーを得るだけでなく、石のお告げも大切にしました。産まれた赤ん坊の臍の緒(ピコ)を石の上に残し、翌朝になってもまだそこにあれば子どもは大成し、王になるとされたのです。もしピコがネズミなどに持ち去られれば子どもの将来はありませんでした。そのような場合は口減らし(殺害)となることすらあったと言われます。

次回に続きます。

ハワイの聖地(1)http://www.holoholo.world/kawaraban/wp-content/uploads/2017/07/MG_81201.jpghttp://www.holoholo.world/kawaraban/wp-content/uploads/2017/07/MG_81201-150x150.jpg近藤純夫特集ハワイ,聖地ハワイには一般にパワースポットと呼ばれる場所があります。しかし、この名前は誤解を招きかねません。パワースポットという言葉は、心や体に力がみなぎる場所であり、訪れる者はそのご利益を得るという印象を与えます。しかし、パワースポットと呼ばれるの場所のほとんどは「聖地(Sacred Place)」であって、ハワイの島々に暮らしてきた人々の歴史遺産です。古墳など、私たち日本人の遺産と変わりありません。聖地を訪れるときは、敬意と謙虚さを忘れないようにしたいものです。   アウマクアとマナ ハワイに移り住んだ先住の人々は、マナと呼ばれる特別なエネルギーを大切にしました。彼らは見慣れぬ土地で暮らすにあたり、祖国のタヒチやマルケサスなどの信仰を持ちこみました。人は死ぬと、アウマクアと呼ばれる霊になります。アウマクアは木や魚や雲などに姿を変え、子孫を見護ると信じられました。ちなみに神々はアクアと呼ばれますが、人が亡くなると、アクアのような性質を持つとされました。ポリネシアの島々で広く信仰される四大神である、カナロア、カーネ、クー、ロノもまたアクアであり、彼らの先祖でもあります。つまり、自然界の森羅万象(あらゆる存在)には先祖の霊が宿り、人々を見守るとされたのでした。ハワイ語ではそのような存在をマナ・キアイと呼びます。 四大神は天地を創造したり、黄泉の国を司るなど、超人的な行ないをすることもありますが、その本質は人々の死後霊です。アウマクアが宿るものには霊的なパワーがあると信じられ、それをマナと呼びました。マナは神々や霊だけが持つ能力ではありません。人間もまた自分の体に宿すことができると信じられました。人々はマナを通じて先祖の神々とつながることができたのです。そのため、少しでも多くのマナを取りこもうと、力のある者どうしが夫婦となり、より強い子どもが授かることを望みました。その結果、土地の権力者である首長(アリイ)が別の権力者と結ばれるべきだという考えは、ハワイの伝統社会に深く浸透していました。ときには親と子、兄弟姉妹が結ばれることさえありました。ハワイ語ではこのような霊的な力の支配をカラクプアと呼びます。 先住のハワイの人々は戦いや収穫、火山活動など、すべての事柄に先祖の神々(アウマクア)が関わっていると信じました。大きなことを成し遂げる力は、人間の知恵や体力では及ばないものです。マナはアウマクアと人間社会を結びつける重要な要素として重んじられました。 強い者には強いマナが宿るという考えは人間に限りません。サメやクジラなど、人に脅威を与える生き物にも及びました。人々は人間の力をはるかに凌駕するものを身につけることで自分のマナを高めると考えました。今日でも用いられる花のレイはかつては少なく、その代わりにクジラの骨やサメの歯、権力者の髪の毛などが重要な素材でした。 同じような理由で巨石や高峰、大滝、辺境の地もパワーのあふれる場所として尊ばれました。人々は強い人、強いもの、強い場所を通じて、マナを取りこもうとしたのです。それらすべては先祖の霊(スピリット)に繋がりますから、天界と人間社会は途切れることなくつながっています。人々は森羅万象を尊び、そこから強い信仰を導き出しました。このことからわかるように、聖地とは、天と地を結ぶ特別の舞台と言えます。今回はそのような土地のなかから巨石に絞ってお話しします。   巨石のパワー ハワイ諸島は火山の島です。人々がハワイ諸島を発見した1000年以上前にはハワイ島とマウイ島では活発な火山活動が続いていました。途方もないエネルギーを目の当たりにした彼らは、大地の奥底から出現した灼熱の溶岩には特別の力が働いていると信じるに至りました。タヒチ語で火山や溶岩を表すペレという言葉が火の女神ペレとなった背景にはそのような事情があります。 この結果、ハワイの人々は大きな石に特別の思いを注ぐようになりました。カウアイ島のポーハク・ピコやオアフ島のカパエマフ、あるいはクーカニロコ、ハワイ島のアカカ滝にあるカフナ・ストーン、マウイ島のハウオラ・ストーンなど、どの島にも巨石にまつわる多くの聖地があり、いまも大切に維持しています。 たとえばカウアイ島のホロホロ・クーにあるポーハク・ピコは出産の場として用いられました。巨石のそばで子を産めば、その子に大きなパワーが与えられると信じたのです。絶大なパワーを得られる母親は権力者の妻に限られました。ポーハク・ピコの敷地には他にもいくつか巨石があり、それらも特権階級の人々が使用しましたが、権力者よりも身分の低い母親は中規模の石しか使えませんでした。 人々は石のパワーを得るだけでなく、石のお告げも大切にしました。産まれた赤ん坊の臍の緒(ピコ)を石の上に残し、翌朝になってもまだそこにあれば子どもは大成し、王になるとされたのです。もしピコがネズミなどに持ち去られれば子どもの将来はありませんでした。そのような場合は口減らし(殺害)となることすらあったと言われます。 次回に続きます。ハワイの自然・文化・歴史、ライフスタイルを語る