カウアイ島の北海岸を西へ進むと、プリンスビルのリゾートエリアを過ぎてすぐに道は蛇行しながら急坂となります。ハウ(サキシマハマボウの近縁)の森を抜けると小さな橋の先に広大な水田が現れます。この水田は坂の手前にある展望台からも眺められます。米の水田と説明されれば何の疑いもなく、日本の稲作地帯と変わらぬ田園風景に見えます。しかしここはハワイ諸島最大のタロイモ栽培地なのです。(※ハワイ語でロイと言います。)ここで生産されたタロイモはカウアイ島はもちろん、ハワイ諸島に広く流通しています。

ハナレイ水田と用水路
ハナレイ水田と用水路

カウアイ島を訪れたことのある人は観光名所にもなっているこの地に覚えがあると思いますが、水田は3つの大きな区画に分かれています。写真のハナレイ水田のほかに、ワイオリ、ワイパー地区があります。それぞれ役割があり、ハナレイは業務用、ワイオリは伝統農業の検証、ワイパーは体験農業などの教育目的です。淡水を確保するのが難しいハワイ諸島で、これほどまでに大規模な水田耕作ができるのは、背景に連なる山々から絶えることのない水が供給されるからです。

ハナレイとはハワイ語で「三日月の形」のこと。ハナレイ湾は、きれいな三日月を描いていることが下の写真からもわかります。湾には1892年に完成した桟橋があり、観光客はもちろん、地元の人たちにとっても人気の遊び場になっていて、陽が落ちるまで子供たちの声が聞こえます。ここはまた、半世紀ほど前に公開されたハリウッドの名作『南太平洋』の舞台であり、その10年後に大ヒットしたフォークソングの「パフ(魔法の竜)」の舞台でもあります。最近では『ツイン・ピークス』や、ジョージ・クルーニーの『ファミリー・ツリー』などでも知られます。

展望台からの風景
展望台からの風景

ハナレイは古くから開拓された土地ですが、実は19世紀にロシアがここを実行支配していた時期がありました。まだカメハメハ大王の支配が及ばなかった頃のことです。当時のカウアイ島の首長はカウムアリイと言いますが、彼はロシアの力を借り、カメハメハ軍勢の脅威を取り除こうとしたのです。ほどなくロシアはこの島から撤退し、王の夢は潰えますが、もしロシアが実行支配を続けることに成功したなら、ハナレイは「カウアイ王国」の首都になっていたかもしれません。

ハナレイ湾からは多くのクルーズが出発し、ナパリ・コーストを中心にカウアイ島の北西海岸を海からの楽しめます。水田が広がることから、多くの住人がいるように思えますが、広大な土地には500名ほどしかいません。夜ともなると漆黒の闇が支配する地域でもあるのです。そのせいで、ハナレイ湾では美しい星空を楽しめます。カウアイ島は雲が多く、星空観察にはあまり向いていないのですが、ここは数少ない例外と言えるでしょう。

水田に飛来したネネ(ハワイガン)
水田に飛来したネネ(ハワイガン)

ハナレイの町の歴史を手っ取り早く学ぶには、町中にあるワイオリ・ミッションハウスが良いでしょう。1837年に造られた歴史ある建物は、この地で伝道活動をしたウイリアム・アレクサンダー宣教師一家の家で、1921年に修繕され、現在は国立歴史登録財となっています。建物は、煙突が溶岩、家具はコアの木を使うなど、ハワイの自然を模した重厚な造りです。1866年から1世紀半も時を刻む壁時計やハワイ語で書かれた聖書も展示されています。ミッションハウスの前には、1834年建築のワイオリ・フイイア教会があります。度重なるハリケーンで被害を受けましたが、そのつど修復されてきました。美しい緑色の外壁とステンドグラスが特徴です。近くのアート・ギャラリーではハワイの自然にちなんだ彫刻教室が開かれています。ワイパーでは土地の農産物を持ち寄ったファーマーズ・マーケットが開かれます。

ハナレイ湾は、北東のプリンスビルに近いエリアでサーフィンを楽しめます。サーフィンなどどこでも楽しめると思うでしょうが、ここでは特別の体験ができます。湾にはイルカ(スピナードルフィン)がいて、一緒に遊んでくれる可能性が高いのです。

ワイパー水田で害虫駆除の体験を行う子供たち
ワイパー水田で害虫駆除の体験を行う子供たち

ショッピングエリアとしては唯一のチンヤンショッピングビレッジは最近注目度が上がっています。ほんの数年前までどこにでもあるようなショップエリアでしたが、現在はカウアイ・ナッツ・ロースターズなど、島で抜群の人気を誇るショップが並ぶようになりました。

隣のプリンスビルもはゴルフコースと高級リゾートホテルがあるだけの場所ではありません。山側にも海側にも多くのトレイルがあります。山側では美しい滝を、海側では透明な海とシークレットビーチに至るトレイルがあります。プリンスビルという名は、当時ハワイ王国の外務大臣を務めていたロバート・ワイリーが、時の王、カメハメハ4世の息子であるアルバート皇太子のために名づけたものです。皇太子が夭逝した後、この地は牧場となりましたが、後に今日に至るリゾートエリアとして発展しました。

三日月型をしたハナレイ湾
三日月型をしたハナレイ湾

トップページはハナレイ水田で作業をする農家です。次回は、ハワイ島のサウスポイントと周辺の自然についてお話しします。

特集:ハナレイhttps://www.holoholo.world/kawaraban/wp-content/uploads/2015/08/photo05.jpghttps://www.holoholo.world/kawaraban/wp-content/uploads/2015/08/photo05-150x150.jpg近藤純夫特集カウアイ島,タロイモ,ハナレイ,水田カウアイ島の北海岸を西へ進むと、プリンスビルのリゾートエリアを過ぎてすぐに道は蛇行しながら急坂となります。ハウ(サキシマハマボウの近縁)の森を抜けると小さな橋の先に広大な水田が現れます。この水田は坂の手前にある展望台からも眺められます。米の水田と説明されれば何の疑いもなく、日本の稲作地帯と変わらぬ田園風景に見えます。しかしここはハワイ諸島最大のタロイモ栽培地なのです。(※ハワイ語でロイと言います。)ここで生産されたタロイモはカウアイ島はもちろん、ハワイ諸島に広く流通しています。 カウアイ島を訪れたことのある人は観光名所にもなっているこの地に覚えがあると思いますが、水田は3つの大きな区画に分かれています。写真のハナレイ水田のほかに、ワイオリ、ワイパー地区があります。それぞれ役割があり、ハナレイは業務用、ワイオリは伝統農業の検証、ワイパーは体験農業などの教育目的です。淡水を確保するのが難しいハワイ諸島で、これほどまでに大規模な水田耕作ができるのは、背景に連なる山々から絶えることのない水が供給されるからです。 ハナレイとはハワイ語で「三日月の形」のこと。ハナレイ湾は、きれいな三日月を描いていることが下の写真からもわかります。湾には1892年に完成した桟橋があり、観光客はもちろん、地元の人たちにとっても人気の遊び場になっていて、陽が落ちるまで子供たちの声が聞こえます。ここはまた、半世紀ほど前に公開されたハリウッドの名作『南太平洋』の舞台であり、その10年後に大ヒットしたフォークソングの「パフ(魔法の竜)」の舞台でもあります。最近では『ツイン・ピークス』や、ジョージ・クルーニーの『ファミリー・ツリー』などでも知られます。 ハナレイは古くから開拓された土地ですが、実は19世紀にロシアがここを実行支配していた時期がありました。まだカメハメハ大王の支配が及ばなかった頃のことです。当時のカウアイ島の首長はカウムアリイと言いますが、彼はロシアの力を借り、カメハメハ軍勢の脅威を取り除こうとしたのです。ほどなくロシアはこの島から撤退し、王の夢は潰えますが、もしロシアが実行支配を続けることに成功したなら、ハナレイは「カウアイ王国」の首都になっていたかもしれません。 ハナレイ湾からは多くのクルーズが出発し、ナパリ・コーストを中心にカウアイ島の北西海岸を海からの楽しめます。水田が広がることから、多くの住人がいるように思えますが、広大な土地には500名ほどしかいません。夜ともなると漆黒の闇が支配する地域でもあるのです。そのせいで、ハナレイ湾では美しい星空を楽しめます。カウアイ島は雲が多く、星空観察にはあまり向いていないのですが、ここは数少ない例外と言えるでしょう。 ハナレイの町の歴史を手っ取り早く学ぶには、町中にあるワイオリ・ミッションハウスが良いでしょう。1837年に造られた歴史ある建物は、この地で伝道活動をしたウイリアム・アレクサンダー宣教師一家の家で、1921年に修繕され、現在は国立歴史登録財となっています。建物は、煙突が溶岩、家具はコアの木を使うなど、ハワイの自然を模した重厚な造りです。1866年から1世紀半も時を刻む壁時計やハワイ語で書かれた聖書も展示されています。ミッションハウスの前には、1834年建築のワイオリ・フイイア教会があります。度重なるハリケーンで被害を受けましたが、そのつど修復されてきました。美しい緑色の外壁とステンドグラスが特徴です。近くのアート・ギャラリーではハワイの自然にちなんだ彫刻教室が開かれています。ワイパーでは土地の農産物を持ち寄ったファーマーズ・マーケットが開かれます。 ハナレイ湾は、北東のプリンスビルに近いエリアでサーフィンを楽しめます。サーフィンなどどこでも楽しめると思うでしょうが、ここでは特別の体験ができます。湾にはイルカ(スピナードルフィン)がいて、一緒に遊んでくれる可能性が高いのです。 ショッピングエリアとしては唯一のチンヤンショッピングビレッジは最近注目度が上がっています。ほんの数年前までどこにでもあるようなショップエリアでしたが、現在はカウアイ・ナッツ・ロースターズなど、島で抜群の人気を誇るショップが並ぶようになりました。 隣のプリンスビルもはゴルフコースと高級リゾートホテルがあるだけの場所ではありません。山側にも海側にも多くのトレイルがあります。山側では美しい滝を、海側では透明な海とシークレットビーチに至るトレイルがあります。プリンスビルという名は、当時ハワイ王国の外務大臣を務めていたロバート・ワイリーが、時の王、カメハメハ4世の息子であるアルバート皇太子のために名づけたものです。皇太子が夭逝した後、この地は牧場となりましたが、後に今日に至るリゾートエリアとして発展しました。 トップページはハナレイ水田で作業をする農家です。次回は、ハワイ島のサウスポイントと周辺の自然についてお話しします。ハワイの自然・文化・歴史、ライフスタイルを語る