ハワイを含むポリネシアの島々には糸を紡ぐ文化はありませんでした。その代わりに用いられたのが樹皮を剥がして水に浸けながらなめすカパ(タパ)という不織布です。カパの素材としては、ワウケ(カジノキ)やミロ(ハイビスカスの仲間)、マーマキ(イラクサの仲間)など、柔らかくて剥がしやすい樹皮を用いました。日本でもカジノキの樹皮を使う文化はありますが、樹皮から糸を作り出して布にする点でハワイと異なります。

イエクク
イエクク(叩き棒)

カパの工程は次の通りです。最初に樹皮を剥ぎ、外皮の凹凸を削り取ります。凹凸の除去にはオピヒと呼ばれる貝が用いられました。次に凹凸を取り払った樹皮を水にさらして柔らかくします。浸けておく期間は2~4週間です。植物は水に浸けておくと異臭を放つものがあります。ワウケもそのひとつなので、水は毎日きれいなものに取り替えます。

クア
クア(叩き台)

その後に樹皮から内皮を取り出し、これを叩き棒(イエクク / ククカパ)で叩きながら伸ばしていきます。イエククにはハールア、あるいはコエアウと呼ばれる、溝や幾何学模様が掘られており、叩く工程でカパを立体的に仕上げます。このときオヒアなどの木で作られた台座(クア)が用いられました。伸ばす目安は背面が透けて見える程度です。ある程度伸びたら天日干しをして乾燥させます。その後、再び水に浸け、柔らかくしたものを再びイエ・ククで叩いて伸ばすという工程を経て仕上げますが、普通は何枚かを重ねて強度と保温力をもたせます。大きなカパを作る場合は糊で貼り合わせました。できあがったカパは、布というより紙に近い感触です。ポリネシアではどの島にも、ハワイのカパのような樹皮を伸ばして布にする文化がありますが、ハワイのカパはきわめて優れていて、耐久性だけでなく、肌触りもよいものでした。

オヘ・カーパラ
オヘ・カーパラ(模様つけ)

製作したカパには主に幾何学模様が描かれました。このときに用いられるのは竹製の模様つけ棒(オヘ・カーパラ)です。オヘとは竹、カーパラとは染めることを意味します。竹を細長く切り出し、先端に幾何学模様などを彫り、ここに染料を付けてカパに貼りつけます。カパによっては染料を付けず、オヘ・カーパラの模様を押しつけて立体感を出すだけのものもあります。

カパ
カパ(染料で色づけされたもの)

染色に用いられた素材

黄色
ウコン(オレナ)やミロの果実、ノニの根、ホーレイ(キョウチクトウの仲間)の茎、樹皮、根など

青紫色
ウキウキ(キキョウラン)の実

緑色
マオ(ハワイアンコットン)

灰緑色
アラアラワイヌイ(コショウ科の植物)の葉や茎

赤色、ピンク色
ノニ(ヤエヤマアオキ)の樹皮やコウ(キバナイヌジャ)の葉、赤土、アーカラ(野イチゴ)の果実、アラエア(ベニノキ)、アマウ(木性シダ)の若い茎、ハウ・ヘレ・ウラ(固有のハイビスカス)の花弁、カロ(タロイモ)の根茎、コア(アカシアの仲間)の根など

黒色
ククイの実を焦がしたものやアラヘエの葉

取り出した染料は水で溶き、乾燥したハラ(タコノキ)の実の先をほぐして筆状にしたものを使ってカパに塗りました。また、ミロの花やマイレの樹液、ビャクダンの花などは香りづけとして用いられました。このように時間をかけ、複雑な工程で作られるカパ作りのノウハウは、母から娘へと受け継がれました。

カパの色に意味づけをした地域もあります。黄色は勝利、赤は勇気、白は浄めを表すとされました。カパの製作は女性のもっとも重要な作業のひとつで、集落からはいつもカパ作り作業の音が聞こえていたと言われます。そのためカパにまつわる神話が数多く残されています。

カパ2
カパ(オヘ・カーパラを強く押しつけてレリーフ状にしたもの)

神話と伝承

女神ヒナに関わるこのような話があります。彼女は、ハワイ島のワイルク川にかかるレインボー滝(ワイアーヌエヌエ)の洞窟で毎日カパ打ちをしていました。あるとき上流に住んでいたトカゲの化け物がいたずら心を起こし、下流に向かって石を落とし始めました。石は次々と下流に落ちていき、やがて滝を落ちてヒナの洞窟を塞ぎはじめました。ヒナは恐怖を抱いて息子のマウイに助けを求めます。マウイはすぐに母のもとに駆けつけました。彼には2掻きで世界のどこにでも行けるという魔法のカヌーがあったからです。マウイはトカゲの化け物を追い詰め、成敗しました。

この他にも、カパの製作に疲れ果てたヒナが、ヒョウタン(イプ)に身の回りのものを入れ、虹(アーヌエヌエ)を辿って太陽に行ったという話もあります。

利用例

カパは主に、男性のふんどし(マロ)や女性のスカート(パーウー)、床の敷物(モエナ)、赤ん坊の産着、ケープ(キヘイ)などに用いられました。テープ状の細長いカパは靴や腕のカバーなどに、カパを幾重にも重ね合わせたものは毛布(カパ・モエ)などに用いられました。また、カパは王や祭司などの上層階級への貢ぎ物として用いられました。ヘイアウと呼ばれる神殿にはアヌヌと呼ばれる神の塔が立てられますが、塔は特別に作られた白いカパで覆われたほか、その中で祈りを唱える祭司(カフナ)は白色のカパに座りました。

カパの伝統はハワイが白人と接触しはじめた18世紀初頭まで続きましたが、やがて西洋文化の定着とともに、日常生活からは消滅します。しかし現在はさまざまな伝統文化の活動のなかでかつての技術が復活しています。

カパ(タパ)https://www.holoholo.world/kawaraban/wp-content/uploads/2019/09/iekuku_ohekapala_4063-1.jpghttps://www.holoholo.world/kawaraban/wp-content/uploads/2019/09/iekuku_ohekapala_4063-1-150x150.jpg近藤純夫特集イエクク,オヘ・カーパラ,カパ,クア,タパ,ヒナ,マウイ,マーマキ,ミロ,ワウケ,染料ハワイを含むポリネシアの島々には糸を紡ぐ文化はありませんでした。その代わりに用いられたのが樹皮を剥がして水に浸けながらなめすカパ(タパ)という不織布です。カパの素材としては、ワウケ(カジノキ)やミロ(ハイビスカスの仲間)、マーマキ(イラクサの仲間)など、柔らかくて剥がしやすい樹皮を用いました。日本でもカジノキの樹皮を使う文化はありますが、樹皮から糸を作り出して布にする点でハワイと異なります。 カパの工程は次の通りです。最初に樹皮を剥ぎ、外皮の凹凸を削り取ります。凹凸の除去にはオピヒと呼ばれる貝が用いられました。次に凹凸を取り払った樹皮を水にさらして柔らかくします。浸けておく期間は2~4週間です。植物は水に浸けておくと異臭を放つものがあります。ワウケもそのひとつなので、水は毎日きれいなものに取り替えます。 その後に樹皮から内皮を取り出し、これを叩き棒(イエクク / ククカパ)で叩きながら伸ばしていきます。イエククにはハールア、あるいはコエアウと呼ばれる、溝や幾何学模様が掘られており、叩く工程でカパを立体的に仕上げます。このときオヒアなどの木で作られた台座(クア)が用いられました。伸ばす目安は背面が透けて見える程度です。ある程度伸びたら天日干しをして乾燥させます。その後、再び水に浸け、柔らかくしたものを再びイエ・ククで叩いて伸ばすという工程を経て仕上げますが、普通は何枚かを重ねて強度と保温力をもたせます。大きなカパを作る場合は糊で貼り合わせました。できあがったカパは、布というより紙に近い感触です。ポリネシアではどの島にも、ハワイのカパのような樹皮を伸ばして布にする文化がありますが、ハワイのカパはきわめて優れていて、耐久性だけでなく、肌触りもよいものでした。 製作したカパには主に幾何学模様が描かれました。このときに用いられるのは竹製の模様つけ棒(オヘ・カーパラ)です。オヘとは竹、カーパラとは染めることを意味します。竹を細長く切り出し、先端に幾何学模様などを彫り、ここに染料を付けてカパに貼りつけます。カパによっては染料を付けず、オヘ・カーパラの模様を押しつけて立体感を出すだけのものもあります。 染色に用いられた素材 黄色 ウコン(オレナ)やミロの果実、ノニの根、ホーレイ(キョウチクトウの仲間)の茎、樹皮、根など 青紫色 ウキウキ(キキョウラン)の実 緑色 マオ(ハワイアンコットン) 灰緑色 アラアラワイヌイ(コショウ科の植物)の葉や茎 赤色、ピンク色 ノニ(ヤエヤマアオキ)の樹皮やコウ(キバナイヌジャ)の葉、赤土、アーカラ(野イチゴ)の果実、アラエア(ベニノキ)、アマウ(木性シダ)の若い茎、ハウ・ヘレ・ウラ(固有のハイビスカス)の花弁、カロ(タロイモ)の根茎、コア(アカシアの仲間)の根など 黒色 ククイの実を焦がしたものやアラヘエの葉 取り出した染料は水で溶き、乾燥したハラ(タコノキ)の実の先をほぐして筆状にしたものを使ってカパに塗りました。また、ミロの花やマイレの樹液、ビャクダンの花などは香りづけとして用いられました。このように時間をかけ、複雑な工程で作られるカパ作りのノウハウは、母から娘へと受け継がれました。 カパの色に意味づけをした地域もあります。黄色は勝利、赤は勇気、白は浄めを表すとされました。カパの製作は女性のもっとも重要な作業のひとつで、集落からはいつもカパ作り作業の音が聞こえていたと言われます。そのためカパにまつわる神話が数多く残されています。 神話と伝承 女神ヒナに関わるこのような話があります。彼女は、ハワイ島のワイルク川にかかるレインボー滝(ワイアーヌエヌエ)の洞窟で毎日カパ打ちをしていました。あるとき上流に住んでいたトカゲの化け物がいたずら心を起こし、下流に向かって石を落とし始めました。石は次々と下流に落ちていき、やがて滝を落ちてヒナの洞窟を塞ぎはじめました。ヒナは恐怖を抱いて息子のマウイに助けを求めます。マウイはすぐに母のもとに駆けつけました。彼には2掻きで世界のどこにでも行けるという魔法のカヌーがあったからです。マウイはトカゲの化け物を追い詰め、成敗しました。 この他にも、カパの製作に疲れ果てたヒナが、ヒョウタン(イプ)に身の回りのものを入れ、虹(アーヌエヌエ)を辿って太陽に行ったという話もあります。 利用例 カパは主に、男性のふんどし(マロ)や女性のスカート(パーウー)、床の敷物(モエナ)、赤ん坊の産着、ケープ(キヘイ)などに用いられました。テープ状の細長いカパは靴や腕のカバーなどに、カパを幾重にも重ね合わせたものは毛布(カパ・モエ)などに用いられました。また、カパは王や祭司などの上層階級への貢ぎ物として用いられました。ヘイアウと呼ばれる神殿にはアヌヌと呼ばれる神の塔が立てられますが、塔は特別に作られた白いカパで覆われたほか、その中で祈りを唱える祭司(カフナ)は白色のカパに座りました。 カパの伝統はハワイが白人と接触しはじめた18世紀初頭まで続きましたが、やがて西洋文化の定着とともに、日常生活からは消滅します。しかし現在はさまざまな伝統文化の活動のなかでかつての技術が復活しています。ハワイの自然・文化・歴史、ライフスタイルを語る