虹はハワイ語で「アオ・アクア」または「(ワイ)アーヌエヌエ」と呼ばれます。断片的な虹はオーノヒと呼ばれるほか、形状や色合いに応じてさまざまな名前が付けられています。ハワイの伝統文化において、虹は神々や首長の徴(しるし)でした。虹は高貴で神聖なものであるという考えから、多くの神話が創られてきました。

ハワイ島キラウエアの溶岩大地に架かった低い虹
ハワイ島キラウエアの溶岩大地に架かった低い虹

そのひとつに虹を創ったメネフネの話があります。雨後の空を美しく飾り立てるため、メネフネと呼ばれる妖精が、ハワイの植物から樹液を集め、空に放って虹を出現させたというものです。われわれ日本人は虹と言えば7色と信じていますが、ハワイでは6色しかありません。虹の数は地域によって異なり、アフリカの一部の伝統文化では4色しかないところもあります。

ハワイの4大神のひとりにロノという豊作を司る神さまがいます。彼はニュージーランドのマオリ族の神話によれば、空の神ランギと地の女神パパから生まれた神で、ハワイでは雲や雷、あるいは虹の姿を借りてこの世に現れると信じられました。雲、雷、虹は、いずれも気象現象で、大地に雨をもたらし肥沃にします。

キラウエア・カルデラに架かった足元の虹
キラウエア・カルデラに架かった足元の虹

こんな話もあります。かつてオアフ島のワイアナエ山系にマカハという首長がいました。彼は漁が上手で、その噂はマノア渓谷に住むケアヌエヌエという女神にまで届きます。彼女はマカハの偉業を称え、マノアからワイアナエに至る壮大なダブル・レインボーを架けたとされます。マカハ本人はもとより、この地に住む人々は美しい虹に感謝してヘイアウ(神殿)を建ててケアヌエヌエを称えようとしますが、女神はこれを辞退し、逆にマカハの偉業を称えて自分の住む土地にマカハという名を付けたとされます。

マウイ島ハレアカラ南麓に出現した鮮やかな虹
マウイ島ハレアカラ南麓に出現した鮮やかな虹

ハワイの神話に数多く登場するヒナという女神がいます。ハワイ島のヒロに流れるワイルク川には、レインボー・フォールズという滝が架かり、そこにヒナは住んでいるとされます。彼女は、ハワイの4大神の妻であったり、日没を司る女神であったりします。ヒナは神の妻の象徴であり、伝統社会における人々の守護神のような役割を果たしました。彼女と虹に関わるこんな話があります。

ヒナはアイカナカという人間と結婚して暮らしていましたが、夫は働かずに文句を言うだけでした。すっかりそんな生活に嫌気が差していたヒナは、あるとき夜に架かる虹(ナイト・レインボー)に出会います。人間は虹を登ることができませんが、神はできます。そこで虹を登って彼女の生まれ育った月へ戻ろうとしますが、傾きが急すぎて登れません。ヒナは、もっと緩やかな傾斜の虹が出現するのを来る日も来る日も待ち続けました。そしてついにある日、理想のナイト・レインボーが出現します。彼女はそっと家を出て虹にたどり着き、少しずつ登りはじめます。しかしそれに気づいたアイカナカが追ってきてヒナの足首を捕まえました。彼女は必死でその手を振りほどき、ついに月にたどり着きます。彼女は末永く幸せに暮らしました。満月のときには、夫から逃げるときに痛めた足をさするヒナの姿が見えると言います。

虹の原理

ハワイ島ヒロのレインボー・フォールズと滝壺に架かった虹
ハワイ島ヒロのレインボー・フォールズと滝壺に架かった虹

ハワイ州は虹の州と呼ばれるように、雨の多い場所ではひんぱんに虹が発生します。日本で見るものよりも鮮やかで、見た目が大きく、大地や海面から完全な形で弧を描くものが少なくありません。ハワイの虹はなぜこれほどまでに特徴的なのでしょうか?

虹は大気中の水滴に光があたっとき、プリズム現象で七色のスペクトルに分解されて広がり、これを私たちが見ます。つまり、足下から上空まで均等に水滴が分布していないと、完全なアーチ型を見ることはできません。

では鮮やかな色合いになるのはなぜでしょう? ハワイではときとして色のひとつひとつをすべて区別できるほど鮮やかな虹が出現します。これは雨粒の大きさが原因です。水滴が大きいと、色は鮮やかな色合いで分離しやすくなるので、それぞれの色をはっきりと現します。反対に水滴が小さくなると、光は水滴のなかではっきりと色を分岐させられず、色の要素が重なりあってしまいます。光は混ざり合うと白色に近づきます。

虹はどこで見ても同じ形なのかといえば、そうではありません。たとえば上空から虹を見ると、円を描いているように見えたり、大地に虹を敷き詰めたようにもなります。基本的には自分の影が見える方向にできます。虹は背後から太陽が射し、前方の空に水滴が浮かんでいる状態で出現します。天空の高い地点にあると虹はできにくいので、早朝や夕暮れの少し前、または冬場によく見られます。

ハワイ島マウナ・ロアに出現したナイト・レインボー
ハワイ島マウナ・ロアに出現したナイト・レインボー

ハワイでは二重の虹もよく見られます。メインの虹を主虹、その上に薄く架かっている虹を副虹と言い、副虹は主虹と色が対称(色の順序が逆)になります。水滴のなかで一度反射してできたものが主虹ですが、二度反射したもの(副虹)も虹を作ります。私たちの目には見えないだけで、虹は最初に外側、その反射を受けて3番目の虹を主虹の内側に、さらに4番目、5番目と、無限に反射を繰り返します。もちろん、反射を繰り返すほど光は拡散し、肉眼では捉えられなくなります。ダブルレインボーはハワイのどこでも普通に見られますが、トリプル・レインボーを確認するのはかなり難しいと言ってよいでしょう。

少し変わったところでは、ヒナの物語で紹介した、夜に架かる虹があります。日中の虹に較べるとぼんやりとしていますが、とても幻想的です。 トップページの写真はマウイ島カフルイに広がるカナハ・ポンドの虹です。

次回はカウアイ島北海岸に広がるハナレイのタロイモ水田についてお話しします。

特集:虹の形と神々の物語https://www.holoholo.world/kawaraban/wp-content/uploads/2015/07/top202.jpghttps://www.holoholo.world/kawaraban/wp-content/uploads/2015/07/top202-150x150.jpg近藤純夫特集アオ・アクア,アーヌエヌエ,ハワイ,神話,虹虹はハワイ語で「アオ・アクア」または「(ワイ)アーヌエヌエ」と呼ばれます。断片的な虹はオーノヒと呼ばれるほか、形状や色合いに応じてさまざまな名前が付けられています。ハワイの伝統文化において、虹は神々や首長の徴(しるし)でした。虹は高貴で神聖なものであるという考えから、多くの神話が創られてきました。 そのひとつに虹を創ったメネフネの話があります。雨後の空を美しく飾り立てるため、メネフネと呼ばれる妖精が、ハワイの植物から樹液を集め、空に放って虹を出現させたというものです。われわれ日本人は虹と言えば7色と信じていますが、ハワイでは6色しかありません。虹の数は地域によって異なり、アフリカの一部の伝統文化では4色しかないところもあります。 ハワイの4大神のひとりにロノという豊作を司る神さまがいます。彼はニュージーランドのマオリ族の神話によれば、空の神ランギと地の女神パパから生まれた神で、ハワイでは雲や雷、あるいは虹の姿を借りてこの世に現れると信じられました。雲、雷、虹は、いずれも気象現象で、大地に雨をもたらし肥沃にします。 こんな話もあります。かつてオアフ島のワイアナエ山系にマカハという首長がいました。彼は漁が上手で、その噂はマノア渓谷に住むケアヌエヌエという女神にまで届きます。彼女はマカハの偉業を称え、マノアからワイアナエに至る壮大なダブル・レインボーを架けたとされます。マカハ本人はもとより、この地に住む人々は美しい虹に感謝してヘイアウ(神殿)を建ててケアヌエヌエを称えようとしますが、女神はこれを辞退し、逆にマカハの偉業を称えて自分の住む土地にマカハという名を付けたとされます。 ハワイの神話に数多く登場するヒナという女神がいます。ハワイ島のヒロに流れるワイルク川には、レインボー・フォールズという滝が架かり、そこにヒナは住んでいるとされます。彼女は、ハワイの4大神の妻であったり、日没を司る女神であったりします。ヒナは神の妻の象徴であり、伝統社会における人々の守護神のような役割を果たしました。彼女と虹に関わるこんな話があります。 ヒナはアイカナカという人間と結婚して暮らしていましたが、夫は働かずに文句を言うだけでした。すっかりそんな生活に嫌気が差していたヒナは、あるとき夜に架かる虹(ナイト・レインボー)に出会います。人間は虹を登ることができませんが、神はできます。そこで虹を登って彼女の生まれ育った月へ戻ろうとしますが、傾きが急すぎて登れません。ヒナは、もっと緩やかな傾斜の虹が出現するのを来る日も来る日も待ち続けました。そしてついにある日、理想のナイト・レインボーが出現します。彼女はそっと家を出て虹にたどり着き、少しずつ登りはじめます。しかしそれに気づいたアイカナカが追ってきてヒナの足首を捕まえました。彼女は必死でその手を振りほどき、ついに月にたどり着きます。彼女は末永く幸せに暮らしました。満月のときには、夫から逃げるときに痛めた足をさするヒナの姿が見えると言います。 虹の原理 ハワイ州は虹の州と呼ばれるように、雨の多い場所ではひんぱんに虹が発生します。日本で見るものよりも鮮やかで、見た目が大きく、大地や海面から完全な形で弧を描くものが少なくありません。ハワイの虹はなぜこれほどまでに特徴的なのでしょうか? 虹は大気中の水滴に光があたっとき、プリズム現象で七色のスペクトルに分解されて広がり、これを私たちが見ます。つまり、足下から上空まで均等に水滴が分布していないと、完全なアーチ型を見ることはできません。 では鮮やかな色合いになるのはなぜでしょう? ハワイではときとして色のひとつひとつをすべて区別できるほど鮮やかな虹が出現します。これは雨粒の大きさが原因です。水滴が大きいと、色は鮮やかな色合いで分離しやすくなるので、それぞれの色をはっきりと現します。反対に水滴が小さくなると、光は水滴のなかではっきりと色を分岐させられず、色の要素が重なりあってしまいます。光は混ざり合うと白色に近づきます。 虹はどこで見ても同じ形なのかといえば、そうではありません。たとえば上空から虹を見ると、円を描いているように見えたり、大地に虹を敷き詰めたようにもなります。基本的には自分の影が見える方向にできます。虹は背後から太陽が射し、前方の空に水滴が浮かんでいる状態で出現します。天空の高い地点にあると虹はできにくいので、早朝や夕暮れの少し前、または冬場によく見られます。 ハワイでは二重の虹もよく見られます。メインの虹を主虹、その上に薄く架かっている虹を副虹と言い、副虹は主虹と色が対称(色の順序が逆)になります。水滴のなかで一度反射してできたものが主虹ですが、二度反射したもの(副虹)も虹を作ります。私たちの目には見えないだけで、虹は最初に外側、その反射を受けて3番目の虹を主虹の内側に、さらに4番目、5番目と、無限に反射を繰り返します。もちろん、反射を繰り返すほど光は拡散し、肉眼では捉えられなくなります。ダブルレインボーはハワイのどこでも普通に見られますが、トリプル・レインボーを確認するのはかなり難しいと言ってよいでしょう。 少し変わったところでは、ヒナの物語で紹介した、夜に架かる虹があります。日中の虹に較べるとぼんやりとしていますが、とても幻想的です。 トップページの写真はマウイ島カフルイに広がるカナハ・ポンドの虹です。 次回はカウアイ島北海岸に広がるハナレイのタロイモ水田についてお話しします。ハワイの自然・文化・歴史、ライフスタイルを語る